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上眼窩裂症候群(SOFS)- MRI検査の重要性と診断方法
概要
上眼窩裂症候群(superior orbital fissure syndrome, SOFS)は、上眼窩裂を通る神経(動眼神経、滑車神経、三叉神経第1枝、外転神経)の障害によって生じる疾患です。この症候群は、眼球運動障害、眼瞼下垂、眼痛などを主症状とします。上眼窩裂は、眼球の奥にある骨の隙間であり、ここを通る神経が損傷すると、視覚や眼球の運動に影響を及ぼします。
解剖学的位置
上眼窩裂は、蝶形骨の大翼と小翼の間に位置し、頭蓋腔(中頭蓋窩)と眼窩を結びます。この裂け目は、眼球の運動や感覚に関与する重要な神経や血管が通過する場所です。
上眼窩裂の位置と通過する神経・血管の解説
上眼窩裂を通る神経は、眼球の運動や感覚に重要な役割を果たしています。
- ✅ 動眼神経(Ⅲ)
- ・解剖: 動眼神経は中脳の内側縦側に位置し、脚間窩から海綿静脈洞を経て上眼窩裂から眼窩に入ります。
・機能: 上直筋、下直筋、内直筋、下斜筋を含む筋肉を制御し、眼球運動を支配します。また、瞳孔の収縮も制御します。 - ✅ 滑車神経(Ⅳ)
- ・解剖: 滑車神経は中脳の下丘下部に位置し、中脳の背側を交差して中脳外側面を回り、上眼窩裂から眼窩に入ります。
・機能: 上斜筋を支配し、眼球を内側に回転させて下方に動かします。 - ✅ 三叉神経第1枝(Ⅴ1)
- ・解剖: 海綿静脈洞の外側壁を走行し、上眼窩裂から眼窩に入ります。
・機能: まぶたや額の感覚を担い、顔面の感覚情報を伝える重要な神経です。 - ✅ 外転神経(Ⅵ)
- ・解剖: 橋下部に位置し、Dorello管を経て海綿静脈洞に入り、上眼窩裂から眼窩に入ります。
・機能: 外直筋を支配し、眼球を外側に動かします。 - ✅ 上眼窩裂を通る静脈
- ・上眼静脈が海綿静脈洞と連続しており、内頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)などで障害されます。
上眼窩裂の立体的な位置関係は、MRI検査を用いることで詳細に把握できます。副鼻腔や眼窩周囲の炎症との鑑別には、副鼻腔炎との関係も重要です。構造的評価は診断の第一歩となります。
上眼窩裂症候群の原因とリスク要因
上眼窩裂症候群の原因は多岐にわたります。
- ✅ 外傷
- ・顔面外傷や眼窩壁骨折が原因となり、神経が圧迫されます。特に、交通事故やスポーツ事故などで顔面に強い衝撃を受けた場合に発生します。
- ✅ 腫瘍
- ・転移性腫瘍やリンパ腫などが上眼窩裂周辺に生じ、神経を圧迫します。腫瘍の伸展に伴い、神経の圧迫が強くなります。
- ✅ 感染
- ・真菌感染や細菌感染が原因となり、神経を損傷します。特に、免疫力が低下している場合に感染症が進行しやすくなります。
- ✅ 血管性疾患
- ・内頸動脈瘤や動静脈瘻などが神経に影響をあたえます。血管の異常が神経に圧力を加え、機能障害を引き起こします。
原因疾患の一部には、くも膜下出血や帯状疱疹などの全身性疾患も含まれます。リスク評価には既往歴や神経学的所見が不可欠です。画像と問診を組み合わせた評価が重要です。
上眼窩裂症候群の診断プロセスと検査内容
- ▶ 臨床的評価
- ・問診と身体検査を行い、眼球運動障害や眼瞼下垂を確認します。視力障害がないかも確認します。
- ▶ 画像診断
- ・MRI検査は特に重要で、脳と眼窩の詳細な画像を取得できます。CISSや造影MRIで、腫瘍や炎症の局在診断を行います。CT検査は骨の病変や周囲組織の状態を確認するために行われます。
- ▶ その他の検査
- ・血液検査や髄液検査が鑑別診断に役立ちます。感染症や炎症の有無を確認するために血液検査が行われ、必要に応じて髄液検査も実施されます。
初期診断では、片頭痛や緊張性頭痛などの一般的な頭痛疾患との鑑別が必要です。頭痛外来での診察で見逃しを防ぐことが可能です。精密な検査により診断の精度を高めます。
MRA検査の役割
MRA(磁気共鳴血管造影)は、血管に関連する病変を検出するのに役立ちます。特に、海綿静脈洞や上眼静脈の異常が疑われる場合に有効です。MRAは造影剤を使用せずに脳の血管を立体的に映像化するため、上眼窩裂周辺の血管異常や動静脈奇形、未破裂動脈瘤などの検出が可能です。これにより、上眼窩裂症候群の原因の一つである血管性疾患を特定し、適切な治療方針を立てることができます。
血管性の病変を正確に捉えるには、MRAが極めて有効です。可逆性脳血管攣縮症候群や動静脈奇形の鑑別にも用いられます。非侵襲的かつ詳細な血流評価が可能です。
治療方法:原因別のアプローチ
- ✔ 外科的治療
- ・腫瘍や血管障害が原因の場合、手術が行われます。
- ✔ 薬物治療
- ・感染症の場合は抗生物質や抗真菌薬が使用されます。
- ✔ 物理療法
- ・神経の圧迫が軽減された後、眼球の運動機能を回復させるために物理療法が行われることがあります。
感染や腫瘍性病変を伴う場合、眼窩や副鼻腔病変も併発しやすいため、副鼻腔炎との鑑別も重要です。患者の背景に合わせた柔軟な治療選択が求められます。薬物と外科のバランスを考慮する必要があります。
予後
上眼窩裂症候群の予後は、原因や治療のタイミングによって異なります。早期に適切な治療が行われると、症状の改善が期待できますが、神経の永久的な損傷が生じることもあります。したがって、症状が現れた際には、迅速に医療機関を受診し、専門的な診断と治療を受けることが重要です。
まとめ:上眼窩裂症候群はMRIによる早期発見が大切
上眼窩裂症候群は、神経圧迫によって眼球運動障害や視覚異常を引き起こす重篤な疾患です。MRI検査やMRAによる正確な診断と早期の治療が極めて重要です。違和感があれば、すぐに専門医の診察を受けることをおすすめします。
ご不安な症状がある場合は、早期の受診が鍵となります。名古屋市(中区、守山区、西区など)や小牧市のエリアからもアクセスが良く、迅速な診療体制を整えています。
※本記事は勝川脳神経クリニック 院長 青山 国広 医師(日本脳神経外科専門医/日本脳卒中専門医/頭痛指導医)が監修しています。
監修日:2025年5月20日
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