脳梗塞
最終更新日 2019年11月10日
監修:医療法人青漣会 勝川脳神経クリニック
理事長 青山 国広
脳梗塞とは
脳梗塞とは、脳の血管が細くなって血流が悪くなる、または血管が詰まることで、脳細胞に酸素や栄養が行き渡らなくなり、その結果として脳細胞が障害を受ける病気です。
脳の血管が詰まる原因は大きく分けて2つ、脳血栓症と脳塞栓症があります。
脳血栓症は、脳の血管そのものに血栓が付着し、詰まる場合です。
脳血栓症では、脳の血管そのものにおいて動脈硬化がベースにあります。動脈硬化の進行とともにプラークという脂肪などの塊が血管壁に付着し、血流が悪くなります。そこに、血圧の変化がきっかけとなって、血液が流れにくくなり、その箇所に血栓ができ、血管を塞いでしまうことで発症します。
脳塞栓症は、脳以外の部位にできた何らかの塊(血液、細菌、癌など)が血液の流れにのって脳の血管へ運ばれてゆき、末梢にいくにつれて次第に細くなっていく脳の血管を突然塞いでしまう場合です。多いのは心房細動によってできた凝血塊が脳にとんで詰まるケースです。進行がんの段階においては、癌組織が一部はがれおちて血流にのって詰まってしまうケースもあります。
ラクナ梗塞
ラクナ梗塞は、穿通枝と呼ばれる細い血管が閉塞することで見られる脳梗塞の1つの病型です。脳梗塞が見られる部位は、主に基底核と呼ばれる大脳の深い場所です。穿通枝は、中大脳動脈などの太い血管から垂直に出ている細い血管(レンズ核線条体動脈)が閉塞することが多くみられ、内包と呼ばれる、錐体路(運動神経に関係)に脳梗塞が及べば、半身の麻痺などの神経症状をきたすことになります。症状が安定してからの治療(慢性期)は、抗血小板薬を中心とした内服治療になります。この時点では、再発を予防するための治療になります。
発症したばかりのころは、脳梗塞の進行を抑えるため、抗血小板作用のあるオザグレルの点滴治療を1週間から2週間使用することになります。必要に応じて脳保護薬(フリーラジカルスカベンジャー)であるエダラボンを使用します。
穿通枝(perforating artery)
穿通枝は、脳の太い血管から出る、細い血管のことで、
太い動脈とは、中大脳動脈、ウィリス動脈輪(内頸動脈、前大脳動脈、後大脳動脈、前交通動脈、後交通動脈)を指します。
この穿通枝が閉塞すると、ラクナ梗塞をきたすことになります。
この血管は、1mm以下の細い血管です。
穿通枝の種類
レンズ核線条体動脈(lenticulostriate artery);中大脳動脈から10本ほど出ます。
前大脳動脈からの枝
反回動脈(recurrent artery)
内頸動脈の枝
前脈絡叢動脈(anterior choroidal artery)
穿通枝が通る部位
Anterior perforated substance(前有孔質)
lateral perforated substance
Posterior perforated substance
アテローム血栓性脳梗塞
アテローム血栓性脳梗塞は、動脈硬化により太い血管が狭窄や閉塞をきたしたことで、
虚血(脳の組織に酸素や栄養が行かない)がおこり、脳梗塞に至る病態です。
動脈硬化は動脈内膜の肥厚と脂質の蓄積によりおきます。
基礎疾患として高血圧、糖尿病、脂質異常症は動脈硬化の危険因子となります。
心原性脳梗塞
脳ではなく心臓にできた血栓や塞栓が血液の流れによって脳の血管へたどりつき、脳の太い血管を詰まらせることで発症しています。
主な発症原因は、心臓に血栓を作りやすい「心房細動(不整脈)」また「弁置換術後」「洞不全症候群」「拡張型心筋症」「心筋梗塞」などがあります。
突然脳の太い血管が詰まるため、予兆はなく、突発的に発症することが多いのが特徴です。
脳梗塞の症状
脳梗塞では、以下のような症状があらわれることがあります。
手足のしびれ
手足の麻痺(手足脱力の場合もあります)
手足のもつれ
ろれつが回らない(言葉が出てこない場合もあります)
よだれが垂れてしまう
ものが二重に見える
めまい
これらの予兆が現れたら、早めに医療機関を受診しましょう。特に脳梗塞が疑わしいのは、上記の症状が2つ以上同時にみられる場合です。もちろん、症状が1つでも脳梗塞の可能性は当然あるのですが、たとえば、一瞬クラッと立ちくらみがするような、ちょっとしためまいがあっただけで、すぐ脳梗塞を疑うわけではありませんし、右手のしびれが時折ある程度であれば、頸椎(首の骨)に問題があるのかもしれません。
脳梗塞の典型例として、たとえば「箸が持てなくなって、さらに口角からよだれがたれてくる」など、2つ以上の場所に症状が出る場合はかなり脳梗塞の可能性が高くなりますので、急いで病院にかかる必要があります。脳梗塞発症後の対処が早いほど、その後の機能回復が見込めます。
脳梗塞の診断
脳梗塞の診断には、CTまたはMRIを撮影します。CTでは早期の脳梗塞は分からないことも多く、MRIの方が脳梗塞の診断には優れています。
またその他、脳梗塞の原因となるような病態が無いか、病歴をチェックしたり、不整脈の有無を心電図でチェックしたりします。
脳梗塞の治療
脳梗塞の治療方法は、主に「薬物治療」「手術」「リハビリ」の3つです。
特に、初期の治療の主軸となるのは薬物治療です。
原因や状態に応じて使用する薬剤は異なります。血栓が原因でしたら、抗血小板療法といってアスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールなどの抗血小板薬を投与することが多いです。また、心原性脳塞栓症のように心臓にできた血栓が脳にとんで起こったと考えられるような場合には抗凝固療法といってヘパリン、ワーファリン、ダビガトラン、アピキサバン、エドキサバン、リバーロキサバンなどが用いられます。それぞれの状態に応じて、治療薬が選択されます。
その他、動脈硬化の原因となるような生活習慣病がある場合には、降圧薬や高脂血症治療薬が併用されます。
場合によっては、手術を行う場合もあります。
急性期において最も重要なのがTPA(Intravenous Injection of Tissue Plasminogen Activator)という治療です。簡単に言えば、血の塊を溶かす薬を投与し、血栓を溶かす治療です。TPAは、脳梗塞発症後3時間遅くても4時間半以内に(発症からできる限り早くが基本)静脈へ注射することが重要で、この処置は一命をとりとめるだけではなく脳細胞の障害や後遺症を減らすことへ直結しています。また脳の血管が詰まっている箇所へ直接「TPA」を投与することも実施されており、股の付け根からカテーテルを用い、脳へ到達した時点で「TPA」を投入します。さらに、カテーテルと細い医療器具を用い、脳の血管に詰まった血栓を直接除去する手術が実施される場合もあります。
また、入院中に行う頸動脈エコー(超音波検査)で頸動脈が狭くなっていることが確認された場合は、「頸動脈内膜切除」といい、首の頸動脈をメスで直接開き、頸動脈に詰まっている塊を除去する手術、あるいは「血管形成術」といい、股の付け根からカテーテルとステント(管腔内部を拡げる医療機器)を用いて頸動脈へアクセスし、血管が詰まっている箇所でステントとバルーンを使って血管を拡げるという方法が行われることもあります。
脳梗塞の後遺症として多い症状としては、半身麻痺(片麻痺)です。ある程度初期治療が済んで体を動かしてよくなった段階で、早めにリハビリを始めることが大切です。
次に言語障害が起こることもあります。どこが障害を受けるかによって症状はさまざまです。筋肉を動かすことに困難が生じて発音がうまくできない場合(構音障害)、言いたい言葉がなかなか出てこなかったり、言葉の意味が理解できなかったりする場合(失語症)など、障害によってリハビリ内容は異なってきますが、言語聴覚士による専門的な訓練が必要です。
その他、記憶障害であったり、認知機能障害であったり、ありとあらゆる症状が出うるので、それぞれの状態に合わせたリハビリが必要です。
まとめ
がん(悪性腫瘍)であれば、(もちろん予防も大切ですが)早期発見早期治療が大切です。その点、脳梗塞は一度起こってしまうと後遺症が出てしまうことも多々あり、予防に力を入れることが大切です。脳梗塞を予防するには、日ごろの生活において、できるだけ高血圧、糖尿病、高脂血症といった危険因子を排除することが大切です。また、同時に定期的に脳外科または神経内科を受診することで、頸動脈の超音波検査を受けたり、心臓に不整脈が無いかをチェックしてもらったりすることも重要です。