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しびれの原因(手・足・指先・舌・唇)と治療
最終更新日 2020年2月22日
監修:医療法人青漣会 勝川脳神経クリニック
理事長 青山 国広
しびれ(痺れ)
一言でしびれといっても、実は非常に多様な病態を含んでいます。
長く正座した後に起こるような「足がしびれる感覚」もしびれですし、ぴりぴりする感じ、手足に力が入らない(麻痺)も、しびれのひとつです。
通常、しびれを感じる場合には神経系のどこかに障害が起きていることがほとんどです。神経とは、脳や脊髄などの中枢神経系と、そこから発せられる情報を各組織に伝達する末梢神経系に分かれます。
たとえば、「右手を上げたい」と思った場合には、大脳から脳の中を順次電気信号が伝わっていき、脊髄を通って、頸椎の高さで末梢神経にバトンタッチし、肩や腕の筋肉を動かすことで右手が上がります。また、急に転びそうになった時には、「反射」といって、体の各部位から「転びそう 危険だ」という信号を受け取り、それを頭で意識するより先に体を動かすことで、転ぶのを防ごうとします。これも神経の働きです。つまり神経は、中枢神経から末梢神経や命令を伝え、末梢神経から中枢神経に情報を伝える伝達役を果たしているのです。しびれは、こうした神経の経路に異常が起きた時に起こります。
しびれの原因
しびれの原因は大きくわけて4つあります。
- 脳疾患
- 脊髄疾患
- 神経根障害
- 末梢神経障害
①脳疾患
脳によるしびれにおいて、代表的なものは脳梗塞です。その他、脳出血、脳炎、神経変性疾患などがあります。血管がつまることによって脳の細胞が死んでしまうのが脳梗塞です。また、動脈硬化や動脈瘤等があると脳内に出血することもあります。ヘルペスウイルス等が脳に関して脳炎をきたすこともあります。また、いわゆる難病とよばれるような、稀な神経疾患も起こります。 通常、脳疾患においては、しびれが1か所だけに生じる、ということは稀です。脳は神経細胞が密集していますので、さほど広範な出血や梗塞でなくとも、2か所以上に麻痺が出る場合や、しびれに加えて口からよだれが出てしまうなど、2つ以上の症状が出ることが多いのが特徴です。
②脊髄疾患
脊髄は神経線維と神経細胞の集合体ですので、外傷性脊髄損傷、脊髄炎、脊髄腫瘍、脊髄梗塞などによって脊髄が損傷すると体幹や四肢にしびれが生じます。
ある高さの脊髄が障害を受けると、そこを通過する刺激が伝わらなくなってしまいます。たとえば事故で腰の脊髄が完全に障害されると、下肢への神経刺激が全く伝わらなくなるため、下肢が動かせなくなりますし、反対に下肢からの刺激も脳に伝わらなくなりますので、触ってもわからないような状態になります。しかし、手に関してはそれより上の脊髄で支配されていますので、問題なく動かすことができます。
③神経根障害
脊髄から神経が出ていくところを神経根といいます。
その神経根が障害されると、しびれが起こることがあります。下腿の前面だけしびれるなど、神経支配に沿ってはっきりと限局した範囲にしびれが出るのが特徴的です。
④末梢神経障害
末梢神経に障害が起きる原因としては、大きく分けて、
- 神経が圧迫された場合
- 神経周囲の血流が障害された場合
- 神経に炎症が起きた場合
たとえば糖尿病で神経障害起きるのは主に末梢神経障害が原因です。その他、ハネムーン症候群などといいますが、腕枕をして寝ていたら手が上がらなくなる、といった病態は、圧迫によって末梢神経が障害されたためにおきます。
末梢神経の異常に起因する運動・感覚・自律神経障害を総称して末梢神経障害といい、ニューロパチーとも呼ばれています。
疾患によりどの障害が現れるかは様々です。運動と感覚の両方が障害される運動感覚性ニューロパチーが多く報告されています。
末梢神経障害(ニューロパチー)の主な所見
感覚障害、運動麻痺、自律神経障害、腱反射の低下・消失
感覚障害:手足のしびれ、感覚鈍麻
運動麻痺:筋委縮、筋力低下
自律神経障害;膀胱直腸障害、起立性低血圧
腱反射の低下・消失
障害部位による末梢神経障害(ニューロパチー)の分類
大きく分けて、多発ニューロパチー(多発神経障害)、単ニューロパチー(単神経障害)、多発単ニューロパチー(多発性単神経障害)に分けられます。
多発ニューロパチー(多発神経障害)
複数の末梢神経が末梢から障害される障害で、左右対称性の四肢末端からの障害がおこります。
単ニューロパチー(単神経障害)
一本の末梢神経が障害される障害で、障害された末梢神経の支配領域のみに障害がおこります。
外傷や圧迫により障害された神経の支配領域に一致した障害が起こることが多いとされています。
多発単ニューロパチー(多発性単神経障害)
単ニューロパチー(単神経障害)が複数存在した障害で、左右非対称の障害がおこります。不規則に分布することが多いです。
症状による末梢神経障害(ニューロパチー)の分類
運動障害と感覚障害のどちらの障害が優位かにより分類されることもあります。
運動障害優位
感覚障害優位
このように、しびれというのは多種多様な原因で起こりますので、実際の診療ではしびれの分布や、随伴する症状、発生してからの経過などを総合的に判断して原因を突き止めます。原因によっては、不可逆的な症状として残ってしまうことも多々あるのがしびれという症状の厄介なところでもあります。一度の受診で原因が分からないこともありますが、早めに受診し、根気強く通院することが大切です。
しびれの治療
しびれの原因にも、様々なものがあります。
原因となる部位で分けるのであれば、末梢性、脊髄性、中枢性となります。
早めに検査をしないといけない(放置してはいけない)しびれとして、顔や体の半分がしびれる場合、脱力・麻痺などの神経症状を伴う場合、頭痛・めまいなどの症状を伴う場合は、脳(中枢性)である可能性があるため、早期診断をすすめます。
比較的多い症状として、肩こり、頸部痛にともなって、腕や手がしびれる場合は、頚椎のヘルニアなどによる頚椎症性神経根症があります。
症状の範囲は、障害を受けた神経根の支配領域にそったしびれ、痛みとなります。
確定診断には、詳細な神経学的所見をとることと、頚椎のMRI検査等にて障害部位の画像検査を行うことになります。
その他、交通外傷に伴うもの、糖尿病に伴うもの、感染、炎症、アルコール、薬剤等、様々な原因でしびれ・痛みをきたします。
原因がわかった上で、治療を進めていくことになります。
診断の遅れが大きく予後にかかわる場合があるため、特に脳卒中に起因するしびれは早期診断、治療が必要になります。
手のしびれ、指先のしびれ
絞扼性神経障害とは、末梢神経が靭帯や骨などの神経周囲の組織により、圧迫などで障害を受けた状態で、 手根管症候群が最多で、肘部管症候群がその次に多く認められます。
手根管症候群 (carpal tunnel syndrome)
疾患名: | 手根管症候群 (carpal tunnel syndrome) |
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障害部位: | 【正中神経】神経の走行、障害部位:手根管で正中神経が圧迫を受け障害されることによる。 手根管とは、手の関節部で靭帯(屈筋支帯)と手根骨で形成されたトンネルである。 この手根管(carpal tunnel)には屈筋腱(9本)と正中神経が入っている。 |
原因: | 特発性、糖尿病、透析、リュウマチ、骨折、腫瘍など |
性別: | 女性に多い |
特徴的な所見: | ①flick sign→手を振ることで改善。 (特に朝方にしびれやすく、手を振ることで正中神経の圧迫が軽減されしびれが改善される。) ②Perfect O sign 不能、tear drop sign陽性 ③Tinel sign陽性 ④Phalen test 陽性 ⑤side pinch(サイドピンチ) |
症状: | ①親指(thumb)、人差し指(index finger)、中指(middle finger)、薬指(ring finger)のしびれ。 ②母指球筋の萎縮に伴い、親指と人差し指でつまみにくくなる。 (Perfect O sign 不能、tear drop sign陽性) |
肘部管症候群、橈骨神経麻痺、その他
疾患名: | 肘部管症候群 |
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疾患名: | 橈骨神経麻痺 |
その他: | ●回内筋症候群 ●前骨間神経麻痺 ●尺骨神経管症候群(ギヨン管症候群) ●後骨間神経麻痺 |
足のしびれ
下肢のしびれ
●脊髄の疾患
腰椎椎間板ヘルニア:腰の椎間板がとび出て、腰の神経を圧迫することによる。
腰部脊柱管狭窄症:腰の靭帯の肥厚、椎間板のヘルニアなどで脊柱管が細くなった状態。
腰椎変性すべり症
腰椎分離すべり症
●末梢神経の疾患
糖尿病性神経症:糖尿病により末梢の神経に障害が出ることで出現。
大腿外側皮神経麻痺
腓骨神経麻痺
足根管症候群
●血管の疾患
閉塞性動脈硬化症:下肢の血管が動脈硬化で細くなり、血流が低下することで出現。
●脳の疾患
脳卒中(脳梗塞、脳出血)
脳腫瘍
舌のしびれ
神経支配(舌の知覚)
・舌の前3分の2は舌神経(下顎神経:三叉神経から分岐)
・舌の後3分の1は舌咽神経
舌のしびれ/痛み
原因:舌神経、下顎神経の損傷が、腫瘍(舌癌)や外傷(抜歯)、神経炎(細菌やウイルスの感染)などで損傷された場合。
頭蓋内で三叉神経や脳の損傷が見られる場合。
舌炎(細菌やウイルスの感染)、口腔乾燥症。
精神的な要因。
唇のしびれ
手掌口症候群(cheiro-oral syndrome)
疾患名: | 手掌口症候群(cheiro-oral syndrome) |
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障害部位: | 視床,脳幹部,放線冠 |
神経の走行: | ●口の感覚→三叉神経→三叉神経主知覚核→る三 叉神経毛帯腹側路→視床の後内側腹側核 ●手の感覚→正中神経/尺骨神経/橈骨神経→脊髄後索→延髄→内側毛帯→視床 |
特徴的な所見: | 口周囲のしびれ |
特徴的な検査所見: | MRI,CTの検査で、視床,脳幹部,放線冠などに脳梗塞、脳出血、脳腫瘍が認められることがある。 |
症状: | 一側の口周囲と、同側の手のしびれ(組合せ:右の唇のしびれと右手のしびれ/左の唇のしびれと左手のしびれ)。 |
経過: | 多くは脳梗塞で認められ、病巣の拡大がなければ、徐々に改善。 |
治療: | 原因となった疾患の治療(脳梗塞:降圧、抗血小板薬、抗凝固薬など / 脳出血:降圧など) |
延髄外側症候群(Wallenberg症候群)
疾患名: | 延髄外側症候群(Wallenberg症候群) |
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障害部位: | 延髄外側部の障害 |
神経の走行: | :●顔の感覚障害:三叉神経脊髄路核の障害 ●半身の感覚障害:脊髄視床路の障害 ●失調:下小脳脚の障害 ●ホルネル症候群:延髄網様体の障害 ●めまい:前庭神経核の障害 ●声の変化、嚥下障害:疑核の障害 |
特徴的な所見: | ホルネル症候群(縮瞳、眼瞼下垂、顔面の発汗低下) |
特徴的な検査所見: | MRIで、延髄に脳梗塞(DW;拡散強調画像にて)、椎骨動脈/後下小脳動脈の血栓による閉塞、解離による狭窄/閉塞の確認(MRAにて) |
症状: | 顔の感覚異常、半身のしびれ、声の変化、飲み込みにくい(嚥下障害)、めまい、ふらつき |
治療: | 急性期は脳梗塞、解離の治療:降圧、抗血小板薬など |
「しびれ」に関するQ&A
手のしびれだけでなく、歩行障害、口のもつれなどが伴った場合は、すぐに受診した方がよいです。
しびれだけの脳梗塞もありますので、他の症状がなくても脳梗塞を否定することはできません。
勝川脳神経クリニック|脳神経外科、神経内科、リハビリテーション科
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