正常圧水頭症の手術適応とその効果 | 名古屋~春日井の脳神経外科 | 勝川脳神経クリニック

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正常圧水頭症の手術適応とその効果

記憶障害に困っている高齢女性。鍵や顔写真、カレンダーのアイコンが周囲に浮かび、杖をついて不安そうな表情をしている。

正常圧水頭症とは

正常圧水頭症は歩行障害、認知機能障害、尿失禁を3徴候とする疾患です。脳室やくも膜下腔に脳脊髄液が貯まり、脳が圧迫されることにより諸症状が生じるとされています。頭にたまった髄液を排除することにより症状の改善が得られることがわかっており、シャント術という手術を行えば水頭症を治療することができます。

正常圧水頭症の原因・分類とシャント手術の必要性

正常圧水頭症はどのようにして起こるのでしょうか?頭部外傷、脳卒中、脳腫瘍等なんらか頭の中で病気が生じて引き起こされる続発性水頭症と、原因が特定できず起こる特発性水頭症に分類されます。腫瘍などにより生じた水頭症は腫瘍のとることで治ることもありますが外傷や脳卒中後に起こる続発性水頭症は髄液の循環や吸収が悪くなり生じるため、基本的にはシャント手術が必要となります。特発性正常圧水頭症は水頭症の原因がはっきりとしないためシャント術を行い水頭症の治療をすることになります。

高齢化社会における正常圧水頭症の重要性と受診のすすめ

高齢化社会が進む本邦では正常圧水頭症は増加傾向にあると考えられており、実際診療する機会も増えてきていると実感しております。しかし歩きづらさ(歩行障害)、物忘れ(認知機能障害)、トイレに間に合わない(尿失禁)などはしばしば高齢者にみられる症状であり、程度によっては病院を受診することをためらったり、年だから仕方がないとあきらめてしまうことが散見されます。このように実は潜在的にまだまだ治療機会に恵まれない患者さんが存在すると考えられ、病気を知ってもらうことが重要です。

正常圧水頭症の診断方法とタップテストの役割

正常圧水頭症の診断と治療について説明します。歩きづらさ、転倒、物忘れ、トイレに間に合わないなど様々なことで病院を受診され、CTやMRIなどの頭の画像検査を行えば、正常圧水頭症があるかないかを判断することができます。言い換えると症状があっても画像検査を行わないと水頭症であることがわからないので、CTやMRI検査は必須となります。画像検査にて正常圧水頭症が疑われた場合は髄液を排除する検査を行うことが推奨されます。髄液を抜く検査をタップテストといいます。髄液はくも膜下腔や脳室を循環していますが、安全に髄液を採取できる箇所は限られており、腰から針を刺して髄液を抜く(腰椎穿刺)ことが一般的です。

記憶障害に困っている高齢男性のイラスト。鍵や顔写真、カレンダーのアイコンが周囲に浮かび、不安そうに頭を押さえながら杖を使っている。

タップテストの方法と手術適応判断への活用

実際にタップテストの方法を説明します。まず横向きにベッドで寝て(側臥位)腰部の背骨に局所麻酔を打ちます。それから専用の針を刺し、くも膜下腔に針が到達すると髄液が排出されます。正常圧水頭症の治療は脳にたまった髄液を排除することにありますので、できるだけ髄液を抜いておくことがタップテストの目的になります。しかし一度にたくさんの髄液を抜くと、髄液圧が下がった状態となり(低髄液圧症)とてもひどい頭痛が生じる為、約30ccの髄液をゆっくりと排除することが勧められています。タップテストの検査時間は30分から60分程必要とします。タップテストの前後で歩行の状態や認知機能検査を評価し、症状が改善したかどうかを判定します。症状が改善すれば、シャント手術を行う価値が非常に高いと判断されます。タップテストは正常圧水頭症の手術適応を決めるうえで非常に有用な検査ですが、腰椎の変性が強い場合など(背骨がすごく曲がっている)検査ができない場合は画像評価のみで手術を決めることもあります。

正常圧水頭症の画像診断とシャント手術適応の決定基準

正常圧水頭症の画像所見は少し難しいですがDESH(Disproportionately Enlarged Subarachnoid space Hydrocephalus)という特徴的な所見が認められます。DESH所見を認めた場合は正常圧水頭症である可能性が高く、症状に矛盾がなければタップテストを行わなくても手術を決めてよいといわれています。タップテストにより一時的に水頭症の治療をした状態を作り出せるのですが、髄液は毎日新しく作り出されるため、数日もすればまた元の水頭症の状態に戻ってしまい、いったん改善した症状も悪くなります。よって水頭症を持続して治療するためにはシャント術が必要となります。以上が手術適応を決める手順となります。

高齢者の正常圧水頭症手術適応と注意点

高齢化が進み手術適応となる患者さんも80代を超える方が増えてきております。手術は全身麻酔で行われるため心臓や肺など重要な臓器に重い病気を持っている方は、手術を受けられない場合もありますが大きな持病を持っていない方は手術を受けることができますので、ご高齢だからといってあきらめないでください。

シャント手術の種類(脳室腹腔シャント・腰椎腹腔シャント)と選択ポイント

手術について説明します。シャント手術は大きく分けて2つの方法があります。脳室から髄液を抜いて、お腹(腹腔)に流す方法を脳室腹腔短絡術(脳室腹腔シャント術)といい、腰椎から髄液を抜いてお腹(腹腔)流す方法を腰椎腹腔短絡術(腰椎腹腔シャント術)といいます。それぞれ長所短所があります。脳室腹腔シャント術は比較的スペースが広い脳室にカテーテルを挿入して髄液を抜くため、長期にわたって安定して水頭症の治療が可能な点です。一方で脳を経由しないと脳室にカテーテルが留置できないため、稀ですが脳出血を生じるリスクがあります。腰椎腹腔短絡術は脊髄のくも膜下腔にカテーテルを留置するため、脳を経由する必要がなく脳出血が生じないことが最大の長所です。しかしカテーテルを挿入する経路が椎弓間(背骨と背骨の間)という少し狭い場所を通ることや、背骨は動かせるところなので術後にカテーテルの断裂や閉塞を生じることがあります。特に腰椎に変性が強い場合(腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症、圧迫骨折等)はカテーテルの留置ができないこともあるので、その場合は脳室腹腔短絡術が選択されます。以上のように患者さんにどちらの手術が安全にできるかを説明し、選択してもらうようにしています。

正常圧水頭症に対するシャント手術の治療効果と適切なタイミング

治療の効果について説明します。シャント術後の症状の改善率は歩行障害が最も高く、おおよそ70%の例が改善すると報告されています。認知機能障害についても60%程度の改善率、尿失禁は50%程度の改善が見込まれるとされています。シャント手術を導入するタイミングはいつが良いのでしょうか?正常圧水頭症が進行するとそれに伴い症状が悪化します。あまりに症状が悪くなると自分で歩くことができなくなります。そうすると足の筋肉も衰えてしまい、たとえシャント術で水頭症を治療しても症状の改善が得にくくなります。正常圧水頭症は比較的ゆっくりではありますが進行する病気です。歩きにくくなって転ぶようになった、物忘れが多くなって生活に支障が出るようになった、尿失禁で困っている等で日常生活に支障をきたしていれば手術のタイミングといえるでしょう。症状がすごく軽い場合は症状の経過観察を行い、手術のタイミングを逸しないようにすることが大事です。歩けなくなってからでは症状の改善率が悪くなるので、転ぶようになるころにはシャント術を受けられることをお勧めします。

正常圧水頭症の手術後、笑顔で元気を取り戻した高齢夫婦のイラスト。寄り添いながら明るい表情を見せている。

正常圧水頭症の早期発見・治療相談の重要性

正常圧水頭症という病気自体を知らなかったり、歳のせいだからと病院を受診しなかったりすることがこの病気を見逃されている大きな要因です。もちろん治療の効果は個人差がありますが、しっかりと適応を見極めれば、シャント術後に患者さん、そのご家族から症状が良くなったことについて感謝されることも多くあります。歩きづらくなった、転ぶようになった、物忘れが多くなった、尿失禁が増えたなどの症状でお困りの方はご相談ください。

※本記事は勝川脳神経クリニック 院長 青山 国広 医師(日本脳神経外科専門医/日本脳卒中専門医/頭痛指導医)が監修しています。
監修日:2025年7月4日
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